全国に100万人いると言われる元看護婦。この潜在パワーを介護に生かそうと力を注ぐ訪問ボランティアナースの会
「キャンナス」代表の菅原由美さんに、熱い思いを語ってもらった。
「私も家庭に入った元看護婦でした」。
神奈川県藤沢市にオフィスを構える菅原さんは、夫の祖母や父母などの介護に直面し在宅介護に取り組んだ。
そのとき、看護婦時代の体験が役立ったと同時に、同じ境遇の元看護婦が埋没しているのではないかと感じたという。
その後に起きた阪神大震災。救済活動をするアジア医師連絡協議会のボランティア活動に参加し、改めて潜在看護婦の
知的・技術的財産の再活用と社会還元の必要性を強く認識した。
阪神大震災2年後の1997年3月、キャンナス(CANNUS)を立ち上げる。英語のcan(出来る)とnurse(看護婦)を
基にした名称で、在宅介護をする人々の負担を軽くする有償のボランティアサービスを始める。
「集まった元看護婦は28人。新聞などで紹介されて手ごたえがあったのですが・・・」
思わぬところに伏兵が現れた。保健所に呼ばれ、看護婦が入浴介助を行うには医師の指示が必要だと警告を受けたのだ。
「おかしいと思いませんか。慢性疾患の方の入浴を助けるとき、看護婦には医師の指示書が必要でヘルパーには
必要がないというのは」
この問題は介護保険スタート直前の2000年3月、看護職を1級ヘルパーとみなす、という厚生省の通達によって
一応解決したが、現行規定上、看護婦は医師の指示がなければ医療行為は出来ない。
そこで菅原さんは、介護保険制度実施を念頭に98年12月、訪問看護・介護を行う有限会社ナースケアを設立した。
医師と連携を取りながら、介護保険と医療保険の枠内サービスをナースケアで行い、それ以外のサービスを
キャンナスが受け持つ補完方式を編み出した。
派遣される1人の看護婦は、キャンナスの看護婦、ナースケアの看護婦、ナースケアのホームヘルパーの3つの顔を持ち、
使い分けて仕事をこなす。
例えば、視力を失ったインスリン注射を必要とする利用者の家族が外出する場合、30分の訪問看護で注射を行い、
その他の食事作りや介助、見守りなどの時間は身体介護としてケアし、不足分をキャンナスの有料サービスで
対応する、といった具合だ。
スタートして5年、医療保険と介護保険の隙間を埋める”菅原方式”は静かな広がりを見せている。キャンナスは、
藤沢市を拠点に神奈川県の横須賀市と座間市、東京都板橋区、愛知県知立市、高知県高知市に同種の組織が発足、
連携を取っている。藤沢の登録看護婦は200人に達し、事務所スタッフも15人に増えて活気のある活動を展開している。
「潜在看護婦という眠れる宝を活用すれば、高齢者の介護や医療に新しい展望が開けるはず。それに対応した国の
柔軟な発想を期待しています」
介護保険の今後の行き先は、現場の声を国がどう生かせるかにかかっている。
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